レバ刺しはこりこりとした食感と甘みが特徴的なものです。加熱したレバーより食感がよく臭みが少ないため好んで食べる人も多いことでしょう。わさび醤油やゴマ油につけて食べるのはレバ刺しならではの食べ方。刺身とは一味違う味わいが癖になるものです。
しかし現在ではレバ刺しの代表である牛レバ刺しは法律によって食べることが禁止されています。2011年から厚生労働省は牛レバーを中心部まで加熱するよう提唱し事業者にも生食用のレバーを提供しないよう警鐘を鳴らしているのです。一方で馬のレバ刺しは安全に食べられるうえに九州地方では馬刺しとともに広く愛されています。牛レバ刺しは禁止されているのになぜ馬レバ刺しはOKなのでしょうか。
今記事では牛レバ刺しが禁止となった原因や、馬レバ刺しが安全に食べられる理由についてご説明していきます。またどうしても牛レバ刺しを食べたいという方のために、生牛レバ刺しに近い風味を出すための調理法についても紹介していきましょう。ぜひ最後までご覧ください。
どうして牛レバ刺しは禁止されているの?
まずは牛レバ刺しが禁止されている理由について牛レバ刺し禁止に至ったきっかけやその危険性を踏まえて解説していきましょう。
牛レバ刺しが禁止になったきっかけ
牛レバ刺しが禁止されるようになったのは2011年に起こったある焼き肉店での食中毒事件がきっかけです。2011年においてまだ牛レバ刺しは焼き肉店でも普通に提供されていました。しかし富山県のある焼き肉店で牛レバ刺しをはじめ生肉を食べた客のうち5人が食中毒で死亡してしまうという痛ましい事件が起きたのです。被害者は180人以上といわれその店や卸売業者の不衛生だけでなく生肉の危険性が大きな問題となりました。
この事件を機に国は本格的に動物の生食に注意を促すため全面的に牛レバーの生食を禁止しました。厚生労働省によると牛レバーによる食中毒に予防策はみつからないため新鮮さ・衛生レベルにかかわらずすべての牛レバーを禁止することでその安全性を保つことになったのです。牛レバ刺しを愛好していた多くの人々はその別れを惜しんで禁止前は焼肉屋でこぞって食べたといいます。安全性が確保できない以上牛レバーは禁止されざるを得なかったのですが愛好者にとっても非常に悲しい出来事だったことでしょう。
牛レバ刺しの危険性
そういった愛好家が多かった牛レバ刺しですがやはり危険性は高いものとなっているのです。その理由を詳しく説明しましょう。
主な理由として牛がO157を保菌していることがあげられます。O157とは腸管出血性大腸菌のことで激しい腹痛と下痢を引き起こしひどいときには人を死に至らしめる恐ろしい菌です。牛は主にその大腸内にO157を保菌しているものです。しかしO157は腸内を逆流して肝臓、つまりはレバーにも侵入してしまっている場合があります。O157はその危険性や事件から牛レバーが禁止される主な原因となりました。
さらに牛レバーには鶏が保菌していることで有名なカンピロバクターも検出されているのです。カンピロバクターは下痢や腹痛を引き起こします。基本は重症化しないことも多いものの抵抗力の低い人は注意が必要でしょう。牛レバーはほかのお肉に比べ危ない菌を保菌している場合が多くその危険性から禁止されてしまったのです。
馬レバ刺しが安全な理由
牛レバーの生食が禁止されているなかでなぜ馬レバ刺しは禁止されていないのでしょうか。それには馬の生態や厳しい基準が関係しています。以下からは詳しくご紹介をしていきましょう。
O157を保菌している可能性が非常に低い
最初に注目するべきは「O157を保菌している可能性が非常に低い」というところでしょう。馬は体温が37~38度と牛や豚に比べて5~6度高いことが特徴です。馬の高い体温ではO157は生存することが難しく厚生労働省が2011年に発表した「生食用食肉(牛及び馬)における気概評価(案)」は馬からO157が発見されなかったことを明らかにしています。O157の危険性がほとんどないことは安全に生食するためには非常に大切な条件といえるでしょう。
一度冷凍されてから出荷されている
有毒な細菌をもっていることが少ない馬が気をつけなければいけないのは寄生虫です。寄生虫も比較的危険性が少ないとされていますが最近ではまれに食中毒が発生するようになりました。そこで寄生虫は‐20℃で48時間以上冷凍されると死滅することから馬肉は冷凍した状態で流通されることが決められたのです。馬肉は万全を期して冷凍流通がなされているため寄生虫の危険性さえも下げられています。
厳しい衛生基準がある
馬肉において厚生労働省は、「生食用食肉の衛生基準」(馬肉)を定めています。これは生食用として販売される馬レバー・肉を対象とした基準でその成分規格や調理方法に関する細かい基準が決められているのです。
たとえば使用する器具の洗浄消毒温度。食肉の温度管理に関して有毒な細菌が発生しないように厳しく管理されています。馬肉は牛や豚の肉に比べて危険性が低いのにもかかわらず厳しい衛生基準のもと提供されているからこそ私たちは安心して食べられるのです。
馬刺しは完全に安心できるの?
ここまで馬肉の安全性をご紹介していきましたが寄生虫の問題を含め馬レバ刺しは本当に安心できるものなのか気になる人もいることでしょう。以下からは馬肉に潜む寄生虫や正しい保存方法で安全に馬肉を楽しむ方法をご説明していきましょう。
馬肉に潜む寄生虫
馬肉に潜むことが多い寄生虫はサルコシスティス・フェアリーといいます。感染すると下痢や嘔吐を一時的に引き起こし、貝を食べてお腹を下すのに似た症状が現れます。しかしこの寄生虫は人に寄生することはありません。基本的には重症化もせず一過性の症状で収まることがほとんどです。そういった比較的危険性の低いサルコシスティス・フェアリーさえ馬肉は冷凍流通で注意を払っているため安心して食べられることでしょう。
冷凍保存する
基本的に馬肉は冷凍保存することが推奨されています。真空パックで購入することが多いためある程度の日持ちも期待できることでしょう。しかし解凍してしまうと急速にその品質は下がってしまいます。食べる直前に冷蔵庫でゆっくり解凍するときれいな発色で全解凍ができるのです。購入したら冷凍保存をし食べる前に冷蔵庫へ移しておくことがポイントになります。
開封したらその日のうちに食べる
馬肉をパッケージから出してしまうとその品質は次第に下がっていきます。解凍してから時間も経っていくので、できればその日のうちに食べきってしまいましょう。
「常温でおいてしまっても再加熱すれば大丈夫」と考えている人もいるかもしれませんがそれは間違いといえます。食材を焼いて死滅する菌ももちろんいますが加熱に強い菌がいることもたしかであります。開封したらその日のうちに、難しい場合は火を通して保存するようにしましょう。
レバ刺しは脱法的に食べられるのか
レバ刺しが禁止されているなか、みなさんはもしかしたらインターネットなどで牛レバーを食べているのをみかけたことがあるかもしれません。
「牛レバーの生食は禁止になったはずなのにどこで食べられるのだろう」と疑問に思ったことでしょう。以下からははたして牛レバーを脱法的に生食できるのか。そして限りなく牛レバーの生食に近い形で食べる方法はあるのかについて詳しくご紹介をしていきます。
牛レバーの生食は全面禁止
実際加熱用牛レバーを生食している人はいるかもしれません。お店が加熱目的で提供した生の牛レバーをそのまま食べることでそれは可能だともいえるでしょう。しかし牛レバーの生食は法律によって全面的に禁止されています。意図的に行っていたりそれがSNSで拡散されたりすれば事態は大事になりかねません。お店にも迷惑がかかるうえ根本的に危険なので絶対にしないようにしましょう。
他の肉のレバ刺しを食べる
牛のレバーとは味わいが異なりますがほかの肉のレバ刺しを食べるのもひとつの手でしょう。さきほども解説したように馬肉は非常に危険性が低いため安全にレバ刺しを楽しめます。意外とこってりした甘みと独特の食感に魅了されてしまうかもしれません。
また鶏刺しも禁止されていないために安心して食べられます。新鮮な地鶏を刺身にしてそのまま食べられる地方もあるので旅行に出かけた際には探してみるのもよいでしょう。またクジラの刺身も代わりにできるのです。大きな体からとれるお肉はボリューム満点でさまざまな食感や味を楽しめることでしょう。レバーも通販で売っていますから自宅でクジラの刺身をつまみに一杯というのもおすすめです。
低温調理機を使う
「どうしても生で牛レバーを食べたい」という人には低温調理という方法があります。以下はオススメしない前提で書かせてもらっていますのでご注意ください。低温調理とは40~60℃台と比較的低温でじっくり加熱する調理方法で食材を真空パックにつめて火を通すものです。この調理法のもとでは肉を加熱しすぎないために適度にレアな状態が保たれ細菌が死滅する可能性があると言われます。生食の牛レバーとまったく同じとはいかなくとも、食感や味はかなり再現されているといってもよいクオリティから牛レバーの新しい食べ方として一部ネット上で上がっているのが散見されます。しかしながら生に近いものに変わりはないため危険であることは知識として持っておくべきです。
まとめ
今記事では牛レバ刺しが禁止された経緯や馬レバ刺しが禁止されない理由について。さらにレバ刺しを工夫して食べる方法についてご紹介しました。焼き肉店で起こった痛ましい事件をきっかけにO157と呼ばれる危険性の高い菌を保有する牛レバ刺しは全面的に禁止され、その生態や管理の面から安全性の高い馬レバ刺しのみが食べられるようになりました。
しかし馬にもまったく危険性がないわけではなくときには寄生虫の危険性や誤った保存方法で食中毒を引き起こす場合があります。正しい方法で馬肉を食べることでようやくその味や食感を存分に楽しめるのです。またどうしてもレバ刺しが食べたい人に向けた工夫もご紹介しました。
脱法レバ刺しというような加熱用のレバーをそのまま食べる方法は非常に危険であり場合によっては指導を受けることもあります。ほかの動物のレバーにチャレンジしたり冷温調理の牛レバーを食べてみたりするのも新しい食が広がって楽しめることでしょう。牛レバ刺しはその危険性から禁止されてしまいましたがほかの食べ方でまだまだレバーの世界は広がること間違いありません。
無理に牛の生レバーにこだわらずぜひとも安心安全な方法でさまざまなお肉を試してみましょう。