焼肉屋や居酒屋などで目にすることがある「ユッケ」はおかずの一品やビールが進むおつまみとして人気の高いメニューです。
一時期話題になったこともあるので一度は名前を聞いたことがあるでしょう。しかしおそらく家庭の食卓にならぶことは少ないため多くの方にはなじみのない食べ物かもしれません。いったいどんな料理なのかくわしく知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
焼肉屋にあるということは肉料理のはずですがどんな肉と部位を使った料理なのでしょうか?知っているようで知らないユッケについて詳しくご紹介します。
ユッケはどんな肉を使った料理?
ユッケとは生の肉を細切りにして盛り付けた韓国 料理のことでいわば「肉の刺身」です。醤油・ゴマ油・砂糖などで作ったタレをかけ、ネギやニンニクといった薬味・卵黄と一緒にまぜ合わせて食べます。生肉ならではの新鮮でやわらかい食感と口の中でとろけるような濃厚な味わいが魅力の肴にピッタリの贅沢な肉料理です。
おもな材料
材料はおもに牛や馬といった赤身肉が使われます。食べられる方法は限られますが実際には鶏肉を使うこともあります。またマグロやカツオなど魚で作ることもあるようです。変わったものでは生ハムやコンビーフさらに野菜で作るアレンジレシピも存在します。
しかし魚や野菜はともかく、肉を食べるときは「中までしっかり火を通す」ことが欠かせないはず。どうしてユッケは食べても良いのでしょうか?またお店での提供は合法的に許可されているのでしょうか。
なぜ生の肉を食べられる?
生食用として専用に加工された肉を衛生管理がしっかりした環境で保存・調理しています。現在はお店で安全な生肉料理を食べられるよう、厚生労働省によって規格基準が決められています。これは焼肉屋や居酒屋といった実店舗だけでなくネット店舗も守らなければならないルールです。この基準を満たしていると保証されたお店のユッケであれば安心して食べられます。
まずなぜ肉の生食が一般的にタブーかというと食中毒に感染する可能性があるためです。食中毒のおもな原因は「カンピロバクター属菌」「サルモネラ属菌」「腸管出血性大腸菌(O157、O111)」といった細菌や寄生虫です。
これらは普段牛や豚など家畜の腸内にいますが食用肉として解体するときに人の手を介して肉の表面にも付着してしまいます。そしてそのまま処理されず口にしてしまうと体内に入った細菌によって食中毒がおきてしまうのです。
つまり表面を正しい方法で滅菌すれば生でも食べられるということです。細菌は熱に弱いため加熱調理で死滅させる方法が一般的ですがユッケの場合はかわりに表面をトリミング(部分的に切り落とすこと)して滅菌・生食を可能にします。
ただし後述しますが生で食べられる肉と部位は食品衛生法によって制限されています。表面を処理すれば和牛など、どんな肉でもユッケにできるというわけではありません。
安心してユッケを楽しむために
このようにユッケには「生食に適した肉」と「安全性が保証された加工・調理環境」が欠かせません。しかしかつては生食用と表記してある肉や生肉料理を安全に提供するためのはっきりしたルールは日本にはありませんでした。その結果ユッケなど牛の生肉を食べたことによる食中毒事件がおきてしまったのです。
これは生食用として加工されていない肉を使用しさらに滅菌処理が不十分なまま提供されてしまったことが原因でした。
この事件をきっかけとして2011年に厚生労働省より、食品における「生食用 食肉 の規格基準」が定められました。一時は提供を禁止されていたユッケでしたがこの新しい基準によってまた焼肉店などお店で味わえるようになっています。
設備や保存・調理などの条件が厳しくなったことでユッケを頼める飲食店は以前より少なくなってしまいました。しかしそのぶん、食中毒のことを気にせず安心して楽しめます。また自宅でも安全に美味しいユッケを食べられるよう適切な状態での保存・流通方法も確立されています。
生食用の肉を提供するには専用の設備や器具・徹底した温度管理などが必要不可欠になりました。それに加え保健所の定期的な立入調査をクリアしているお店だけがユッケの提供を許されています。国の認可を受けているお店はかならず許可証を掲げているため、事前に確認してから購入するとより安心です。
ユッケに使われるのはどんな肉?
上記のように牛、そして馬などの赤身肉であることが多いでしょう。以前はユッケといえば牛が多く使われていましたが、より安全性を高めるため違う種類の肉を使用するお店も増えています。部位はおもにモモを使います。
特徴は脂身が少なくやわらかい肉質であることでしょう。肉本来のうま味を堪能するにはピッタリの部位なのです。
こうして使える肉や部位がある程度決まっているのは美味しさの問題だけでなく安全性を確保するためです。
下記の生肉は食品衛生法によってお店で提供することはもちろん個人で食べることも規制されています。
牛のレバー
レバー(肝臓)は赤身肉と違い表面を削ぐトリミング処理だけでは食中毒を防げません。牛の腸内に多くいる「腸管出血性大腸菌(O157、O111)」などの細菌は、レバーにも存在します。細菌は内部まで入り込んでいるため、完全に死滅させるには加熱調理しか方法がありません。63℃で30分間、もしくは75℃で1分間以上は火を通すことが推奨されています。
さきほど述べた食中毒事件では、牛のユッケ以外に生レバーも原因のひとつでした。新基準のもとに販売が再開されているユッケと異なり、牛レバ刺しを食べることは現在も一切禁止です。
豚の肉、内臓
豚は、食中毒の危険性がとても高いといわれています。牛のように表面を焼く、もしくはトリミングするだけでは対策として不十分であり生のまま食べることができません。
もし豚肉を生の部分が残ったまま食べてしまうと重い肝障害を引きおこす「E型肝炎ウイルス」に感染してしまう可能性があります。また「サルモネラ属菌」や「カンピロバクター属菌」などによる食中毒感染のおそれもあるのです。これらの原因菌は牛レバーと同じく中心部まで加熱しなければ死滅しません。豚肉は色が変わるまでしっかり調理してから食べるよう厚生労働省から注意喚起されています。
またユッケに使用しても問題ないとされる肉は「認定生食用食肉取扱者」がいる施設で加工・調理したものに限られています。どんなに「鮮度が良い」「品質が良く高級」とされた肉でもこの条件を満たしていなければ生で食べることは避けるべきです。
次にユッケに使用されることが多い肉とそれぞれの特徴をご紹介します。
ユッケといえば「牛肉」
やはり「ユッケ=牛肉」というイメージは強いでしょう。こってりと濃厚な口当たりでありながら焼肉やステーキなどと比べてあっさりいただけるところが魅力です。牛肉の場合多くは「内モモ」という部位が使用されます。モモ肉のなかでもとくに肉質がやわらかい部分でその食感を活かしてローストビーフやたたきに使われることもある肉です。
ユッケに使用できる牛肉は国産はもちろんのこと外国産であっても「生食用食肉の規格基準」に従って加工されたものに限られています。国産牛であれば赤身肉の合間合間につまった脂身である「サシ」いわゆる「霜降り」が細かく入るとより上質である証です。牛は肉のなかでもとくに脂肪が多いため好みが別れますがそのぶん濃い味わいが好きな方にはたまらないでしょう。
めずらしい「鶏肉」も
鶏肉を生で食べる場合はユッケより「鳥刺し」の呼び方が一般的です。九州の一部では名物の「鶏タタキ」とともによく食べられるメニューです。それ以外の地域では提供する飲食店が少ないためあまり馴染みがないかもしれません。部位ごとに食感が違いますが肉自体はさっぱりとしたヘルシーな味わい。九州独特の甘口醤油をはじめ、さまざまな調味料や薬味に合います。
鶏は豚と同じく「カンピロバクター」や「サルモネラ」などの細菌を持っています。そのため牛肉などと違い生で提供されること自体がめずらしくとくに規格基準がありません。しかし2017年には厚生労働省より「カンピロバクター食中毒対策の推進について」が通知されています。
さらにより正確にお店の安全性を証明するため鹿児島県などが独自に制定した「生食用食鳥肉の衛生基準」も存在します。これを守っていることを明記しているお店・施設であればより安心して購入できますね。
高い安全性と栄養価をもつ「馬肉」
馬肉が別名「桜肉」であることから「桜ユッケ」とも呼ばれます。馬肉は高タンパク・低脂質で鉄分やコラーゲンも豊富のためダイエットやトレーニング向きの肉として近年注目を集めています。ほのかな甘みを感じるあっさりした味わいと牛肉よりもくどさや臭みが少ないことが特徴です。
また「生食用の肉のなかでは比較的安全」というのも注目すべきポイントでしょう。実は馬肉には上記の規格基準が適用されていません。ほかの家畜と違って馬は体内に細菌をもっていないため生で食べても食中毒の心配が少ないのです。
ただし寄生虫がいる可能性があり死滅させるには徹底した冷凍保管・流通が欠かせません。生肉を衛生的に取り扱う環境をきちんと整えているお店で購入しましょう。
食べたときのクセが少ないことまた比較的安全性が高いことからはじめてユッケを食べる人にもおすすめです。
まとめ
ユッケは肉のうま味をそのまま味わえる魅力的な料理です。肉を生のまま食べると聞くとやはり不安になってしまうかもしれません。しかし現在は国によって生肉を安全に食べられるよう基準がしっかりと定められています。その細かく厳しいルールをクリア・対応したお店が提供するユッケであれば安全に美味しく食べられます。
ユッケに使われる肉は牛だけでなく馬や鶏もあり、の味わいや魅力もさまざまです。違いを楽しみながら、お好みのユッケを探していただいてみてくださいね。